書評
網膜静脈閉塞症
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網膜静脈閉塞症は眼底出血の代表であるが、これを総合的に扱ったモノグラフが刊行された。
著者の戸張は、本症の急性期に光凝固が著効を奏することを世界で初めて報告した。東大眼科にいた昭和46年(1971)のことであり、それ以来、約4,000例の治療経験がある権威である。
網膜静脈閉塞症は単一疾患ではない。網膜静脈分枝閉塞症BRVOと網膜中心静脈閉塞症CRVOの、発症機序と予後が大きく異なる2疾患からなっているからである。この本でも、両者の違いに十分配慮しながら論述が進められている。
本書は8つの章からなる。疫学と統計、発生機序と病理、分類、自然経過、臨床所見、合併症、検査、治療がそれである。
ページ数の配分からみると、最後の「治療」がもっとも詳しい。どの項目にも内外の文献がしっかり引用され、さらに、ほとんどのページにカラーや蛍光眼底造影の写真が提示されているので、学問的であると同時に、図譜としての性格を合わせて持っている。
網膜静脈閉塞症は頻度の多い疾患なので、とかく「なんでも知っている」という気になりがちであるが、本書をみていくと、思いがけない新知見が随所に出てくる。
BRVOは網膜の動静脈交叉部の血管閉塞、そしてCRVOは網膜中心静脈の閉塞と単純に考えられやすい。「8.臨床所見」の章にある「血液」の項目は、血液の粘稠度や赤血球の変形能、さらには血管内皮増殖因子VEGFなどの異常が素因としてある可能性を示している。
BRVO・CRVOでは、そ の発症初期の所見は良く知られているが、陳旧化した場合や合併症については知見が乏しい。前者では網膜裂孔と硝子体出血、そ して後者では緑内障が大きな問題である。それらについても本書の記述は親切であり、臨床家にとっても有用な情報を提供している。 「治療」の章では、著者らが創始した光凝固はもちろん十分に解説されているが、それ以外の方法についての記述も詳しい。血栓を溶解させる線溶療法、ダイア モックス(R)とプロスタグランジン、硝子体手術、レーザーを使った網膜と脈絡膜間の静脈吻合術、さらには最新の手術法である交叉部での膜切開術sheathotomyまで扱われている。
モノグラフといえば、「なんでも書いてあるが堅苦しい本」と思われやすい。ところが本書は、文献をしっかり引用して学問的でありながら、「臨床家のための実戦的な本」という性格が強く出ている。
文章は平易である。一気に通読することができるが、「網膜静脈閉塞症がこれだけ幅と奥行きの深い疾患であるのか」という印象を強く受けた。本書が広く読まれ、その内容が眼科医すべての常識となることが願われるのである。
「日本の眼科」 Vol.74(2003年) No.3 より
著者の戸張は、本症の急性期に光凝固が著効を奏することを世界で初めて報告した。東大眼科にいた昭和46年(1971)のことであり、それ以来、約4,000例の治療経験がある権威である。
網膜静脈閉塞症は単一疾患ではない。網膜静脈分枝閉塞症BRVOと網膜中心静脈閉塞症CRVOの、発症機序と予後が大きく異なる2疾患からなっているからである。この本でも、両者の違いに十分配慮しながら論述が進められている。
本書は8つの章からなる。疫学と統計、発生機序と病理、分類、自然経過、臨床所見、合併症、検査、治療がそれである。
ページ数の配分からみると、最後の「治療」がもっとも詳しい。どの項目にも内外の文献がしっかり引用され、さらに、ほとんどのページにカラーや蛍光眼底造影の写真が提示されているので、学問的であると同時に、図譜としての性格を合わせて持っている。
網膜静脈閉塞症は頻度の多い疾患なので、とかく「なんでも知っている」という気になりがちであるが、本書をみていくと、思いがけない新知見が随所に出てくる。
BRVOは網膜の動静脈交叉部の血管閉塞、そしてCRVOは網膜中心静脈の閉塞と単純に考えられやすい。「8.臨床所見」の章にある「血液」の項目は、血液の粘稠度や赤血球の変形能、さらには血管内皮増殖因子VEGFなどの異常が素因としてある可能性を示している。
BRVO・CRVOでは、その発症初期の所見は良く知られているが、陳旧化した場合や合併症については知見が乏しい。前者では網膜裂孔と硝子体出血、そ して後者では緑内障が大きな問題である。それらについても本書の記述は親切であり、臨床家にとっても有用な情報を提供している。 「治療」の章では、著者らが創始した光凝固はもちろん十分に解説されているが、それ以外の方法についての記述も詳しい。血栓を溶解させる線溶療法、ダイア モックス(R)とプロスタグランジン、硝子体手術、レーザーを使った網膜と脈絡膜間の静脈吻合術、さらには最新の手術法である交叉部での膜切開術sheathotomyまで扱われている。
モノグラフといえば、「なんでも書いてあるが堅苦しい本」と思われやすい。ところが本書は、文献をしっかり引用して学問的でありながら、「臨床家のための実戦的な本」という性格が強く出ている。
文章は平易である。一気に通読することができるが、「網膜静脈閉塞症がこれだけ幅と奥行きの深い疾患であるのか」という印象を強く受けた。本書が広く読まれ、その内容が眼科医すべての常識となることが願われるのである。
「日本の眼科」 Vol.74(2003年) No.3 より